IVR: 整形外科カテーテル療法

はじめに

はじめに

痛み止めの薬をいくら飲んでも効かない。
シップを貼っても変わらない。
マッサージを受けてもすぐに痛みがぶり返す
病院で検査を受けても異常がないと言われる。


このような痛みでお悩みではないでしょうか?

当院では、このような難治性の筋肉痛や関節痛に対して

カテーテル(極細チューブ)を用いたIVRを行っております。

IVR (Interventional Radiology)

ハリやカテーテルをX線モニターやエコーなどの診断機器を見ながら体内に進めて、薬液などを患部にダイレクトに注入する治療法です。

カテーテルの太さは外径1mmと細いですが、長さは65㎝~150㎝まであります。動脈硬化などで血管が細くなっている場合には通すのに難渋することもありますが、基本的には体内のどこでもカテーテルをスムーズに到達させることが可能です。

整形外科で行うIVR

熟練した放射線科医や循環器内科医と共に行います。
当院では、
①従来の整形外科的な治療法では効果が乏しい
②カテーテル療法で満足できる治療効果が十分期待できる
場合において、本手法を提案します。

整形外科カテーテル療法の治療対象

下記症状に対して、本手法が効果を期待できると考えられます。

1. 筋変性による筋由来の痛み
2. 関節炎に伴う関節痛
3. 就眠中に悪化する夜間痛

筋変性とは



経年変化によって筋肉にキズがはいり、弾力性や伸縮が衰えていくことを筋変性と呼びます。筋変性によって筋肉には、以下の変化が起こります。
①脂肪組織が筋肉内に浸潤(脂肪浸潤)
②筋肉が線維組織に置換(筋線維化)
筋変性に関するメカニズムはいまだ不明であるものの、脂肪浸潤は筋変性に強く関与していると考えられています。

脂肪の役目とその影響
筋変性による肘関節痛

本来、皮下脂肪は栄養の貯蔵庫として、また熱や寒さから身を守る断熱材として機能します

一方、内臓脂肪などの過剰な脂肪組織からは、TNF-αなどのサイトカイン(炎症細胞を呼び寄せる生理活性物質)が分泌され、動脈硬化の促進やインスリンの活性低下などを招き、高血圧、高脂血症、高血糖を起こす原因となる事が知られています。



筋変性に伴う脂肪浸潤や筋肉内脂肪の問題点
筋変性による肘関節痛

筋変性によって筋肉内に脂肪が蓄積することにより
1. 筋肉内にキズが生じる(肉離れ)
2. 運動不足で筋肉が細くなる(筋委縮)
3. 加齢変化で筋肉が衰える(サルコペニア)
の3つの変化が生じることが知られています。



腱内部への脂肪浸潤

筋変性が進行すると、筋肉内への脂肪浸潤を招き、
    筋肉がさらに脂肪や線維に置き換わってしまいます。



筋肉内部への旺盛な血管増生
(肘筋エコー像)

筋肉内脂肪が増えていくと、
1. 筋肉の力学的強度が下がり、新たな筋損傷を誘発
2. 脂肪組織がTNF-αなどのサイトカインを放出することで、さらなる筋肉内への脂肪浸潤および炎症細胞の浸潤をきたします。



筋肉内浸潤した脂肪組織は、結合織や毛細血管の増生をきたし、激しく炎症を起こすようになります。

このような機序により疼痛や機能障害を起こすと考えられます。

脂肪組織の炎症が引き起こす問題点
背筋の著しい萎縮と脂肪浸潤
(腰椎MRI)

筋肉や関節の内部には、元から骨、筋肉や腱の間に脂肪組織があり、それ自体が炎症を起こして痛みを発することもあります(脂肪体炎)。


背筋内部に旺盛な血管浸潤あり
(エコー写真)

脂肪体炎の原因としては、過度な関節運動に伴う力学的なストレスの他に、動脈硬化や糖尿病、グルタチオン蓄積などによる脂肪組織の慢性炎症もあげられています。

筋変性や脂肪組織の炎症が引き起こす症状
代表的な3つの症状
動作時痛

変性した筋にストレスが加わると炎症が悪化し、動作時に痛みを発します。

安静時痛

炎症がさらに悪化、長期化すると、動作に関わらず痛みを感じることも珍しくありません。

夜間痛

就眠時の夜間痛となって睡眠も妨げられ、日常生活に大きな支障を生じることもしばしば聞かれます

カテーテル療法が治療効果を期待できる疾患

主に以下の疾患に対してお勧めしております。

1) 筋付着部炎(筋肉と骨との接合部での筋変性に伴う炎症) 慢性腱炎(筋肉と骨とをつなぐ結合織の炎症)

代表疾患

物理療法も試すべき!

多くの場合、物理療法や理学療法、ステロイド注射などが有効です。ただしステロイド注射は筋の脆弱化を招き、ときに肉離れを誘発するという問題点があります。長期化した激しい痛みでスポーツや日常生活への支障が著しい場合には、IVRをお勧めしております。

2) 滑膜炎(骨や筋肉の間に介在する、脂肪組織が豊富な膜状の組織の炎症)

代表疾患

ヒアルロン酸注射が
著効する場合も多々あります

滑膜から産出される滑液は関節に潤いを与えます。滑膜炎がある場合、滑液の産生と拡散が障害され、円滑な 関節運動が妨げられます。

整形外科では関節内注射を行う事で滑液の補充と拡散を図ります。しかし、注射後に症状が悪化する場合もあります。そのような場合に、カテーテル療法はとても有用です。施行当日から“夜間痛が取れて久しぶりにぐっすり眠れた”と言われる方も珍しくありません。

3) 脂肪体炎(筋肉内部や関節内部にある脂肪組織の炎症)

代表疾患

歩容や座位姿勢など、ご本人の日常生活動作でのちょっとした癖が原因の事が多く、これらの矯正には理学療法がとても有効です。 ただし効果を実感するには2~3か月程度は必要です。治療に十分な時間を取れない場合や、少しでも早く痛みをすっきりさせたい場合には、カテーテル療法がとても有用です。

血行障害に対するIVR

筋肉や脂肪のトラブル以外にも四肢関節に痛みを生じさせる原因として、動脈硬化に伴う血行障害が挙げられます。

それは閉塞性動脈硬化症という病気です。多くの場合、歩行時に足の冷えと痛み、しびれを訴えます。病状が進行した場合、安静時でも痛みを訴えます。 血管の内腔に狭小化や閉塞を認める場合には、血管を拡張させる必要があります。

血管拡張術の手順

以下の手法で血流の改善を図ります。

閉塞性動脈硬化症の注意点

 

四肢の血管に動脈硬化症が発生している場合、心臓や脳の血管も動脈硬化している可能性が高い事が知られています。 心臓に血液を送り込む冠動脈に狭窄や閉塞があると狭心症や心筋梗塞といった重篤な病気になる恐れがあります。

よって、治療する必要があるのは四肢末梢の血管だけではありません。IVRがすんだら、心臓や主要血管をくまなく検査し、動脈硬化のリスクファクターである高脂血症、高血圧、糖尿病などの予防や治療に励む必要があります。

カテーテル療法の手順

カテーテル療法の手順

1. 局所麻酔をしてから、腕や大腿の付け根に一か所だけハリを刺します。


カテーテル療法の手順

2. そこからカテーテルを血管内に挿入します。


カテーテル療法の手順

3. モニターで目的の部位までカテーテルが進んだのを確認してから、造影剤や薬液の注入などを行います。

注入時に、軽く電気が流れたようなピリピリ感や、蚊に刺されたようなかゆみを感じるかもしれません。それがご本人の痛む部位に感じるのなら、間違いなく薬液は目的の部位に到達しています。


カテーテル療法の手順

4. “体が熱くなってきた”、“重く感じる”、“痒い”などの軽い不快感があるかもしれませんが、30秒ほどでおさまります。


カテーテル療法の手順

5. 注入後はカテーテルを抜去した後、針を刺した部分を10分程度圧迫して止血します。

所要時間は30分から1時間程度であり、ご本人の負担はとても少ないため、日帰り手術で対応可能です。


カテーテル療法の手順

6. 穿刺部の傷跡は1週間たつと、ほとんど目立たなくなります。


整形外科カテーテル療法の注意点

①筋腱損傷(肉離れ)や靭帯損傷(ねんざ)などの既存疾患に合併した炎症及び痛みにも有効な場合があります。ただし一般的には、既存疾患の治療が最優先となります。

②リウマチのような自己免疫疾患、重度の変形性関節症による関節痛には原則として本手法を適応しておりません。

③造影剤など、IVRで使用する薬剤にアレルギーがある場合にはお勧めできない場合があります。

④これまで当院で治療した患者さんの8割以上に、症状の軽減を認めております。低侵襲で画期的な手法ですが、改善の程度や効果発現の時期には個人差があります。施行直後から劇的に改善する方も、施行後1カ月ほどかけて徐々に楽になる方もいらっしゃいます。

⑤現在、整形外科疾患に対してのカテーテル療法は保険診療が認められておらず、自費診療で提供させていただいております。費用などの詳細は担当医からご説明差し上げます。

担当医師


放射線科医師 金城忠志

資格・認定

  • 日本医学放射線学会放射線診断専門医
  • 検診マンモグラフィー認定医
  • 日本IVR専門医
  • 腹部大動脈瘤ステントグラフト実施医
  • 下肢静脈瘤血管内焼却術実施医

専門分野

  • 放射線画像診断
  • IVR

  • Top