五十肩治療

はじめに

五十肩

骨や軟骨には異常を認めないものの、肩の筋肉や腱、靭帯などに加齢変化や外傷その他の理由で損傷を生じ、肩の関節痛や可動域制限などの機能障害を起こすことです。

五十肩とも四十肩とも呼ばれますが、正式な病名は肩関節周囲炎であり、30歳台でも60歳台でも発生します。

五十肩では①炎症期(動作時にも安静時にも激しい痛み)②拘縮期(痛みは軽減するが、関節が固くて動かない)③緩解期(徐々に関節が柔らかくなる)という3つの病期を経て1~2年程度で治癒することが知られています。

症状が軽い場合

症状が軽い場合は、マッサージやストレッチ、湿布などですぐに治る事もありますが、初期治療が遅れると治りにくくなります。また、痛みが和らいできたからといって肩を動かさずにいると、炎症が再燃して動作時の痛みが悪化することもしばしばあり、治療に2年以上かかる事も少なくありません。

当院では、より早期の疼痛緩和と、より完全な機能回復を目的に、五十肩ないしは肩関節周囲炎に対する様々な治療を行っております。

五十肩で“痛くて” “動かせない” “眠れない”

肩関節の構造

肩関節の構造

肩関節は肩甲骨の関節窩に上腕骨頭がはまり込んでいる構造をしています。
関節の接触面積が狭いことから、可動域がとても広い反面、力学的に不安定で関節がずれやすいという問題点があります。

肩関節の構造

関節が満足に機能するためには、腱板(上腕骨頭を関節窩に押し付ける4つの筋肉)が正常に機能して、上腕骨頭が関節窩にピタッと吸い付いている事が重要です。

安定した肩関節

安定した肩関節
  • 腱板が正常に機能する事で、上腕骨頭が関節面に吸着して高い安定性を得ることができます。

不安定な肩関節

不安定な肩関節
  • 加齢変形や運動不足などの理由で、腱板の機能低下(左図の赤い丸の部分)が 関節の安定性を低下させます
  • 関節内のメカニカルなストレスは、力学的強度が最も低い腱板疎部(左図の赤い部分)に集中します。
  • その結果、腱板疎部に炎症を来し、激しい痛みを発生させます。

動かない肩関節

動かない肩関節
  • 肩を動かさないでいると、関節包は肥厚、線維化して伸び縮みしなくなるため、肩はますます動かなくなります。
  • 腱板疎部の炎症は関節内全体に波及することで、関節内の軟部組織が癒着するため、肩関節の動きが強く妨げられます。
  • その結果、背中や首、腕や肘など多箇所に痛みやコリが生じます。

50歳を過ぎると肩には何が起きるのか?

腱板断裂が発生しやすくなります。

50歳を過ぎると肩には何が起きるのか?
  • ある健診の研究結果によると、50歳台の約12%に腱板断裂が認められたとのことです。
  • 本来なら腱板断裂は、転倒して肩をぶつけた時など、 外傷から起こる事が多く、激しい痛みのために手術を要することもあります。
  • 健診データでは、これらの方には外傷歴はなく、更に年齢別の腱板断裂発生率は60歳台で25%、70歳台で45%、80歳台で50%と、年齢に比例して上昇したのです。
  • ここで注目すべきことは、50歳~80歳台のすべての年代において、肩のトラブルで五十肩と診断されたのは約30%にすぎなかったことです。
  • つまり、腱板断裂があるから必ず五十肩になるとは限らないということです。
  • 一方、五十肩でお困りの方々に共通して見られた特徴は、
    インピンジメントが見られる ②体幹筋力が低いと報告されています。

インピンジメントとは

インピンジメントとは

腕を上げる時、上腕骨頭の大結節が烏口肩峰靭帯の下を通過する際に、腱板や滑液包が肩峰と衝突して痛みを引き起こすことを意味します。

インピンジメントの原因

インピンジメントの原因
  • X線撮影で肩峰下腔の距離(左図の白矢印)をチェックします。
  • 距離が狭い場合にはインピンジが発生しやすくなりますので、エコー検査を追加して腱板断裂や滑液包炎の有無を評価します。
インピンジメントの原因

検査では異常がなくても、背中の筋肉が硬直して肩甲骨の動きを妨げていたり、全体的な姿勢の問題から肩甲骨の位置や傾きに問題があったりすると、インピンジメントは発生します。

肩甲骨の動きや、肩甲骨の傾きの異常とは?

①肩甲骨の下方回旋

肩甲骨の下方回旋

腕を上げる動作に伴って、肩甲骨も関節窩(上腕骨頭収めるゴルフティーのような部分)を上に向ける必要があります。この動作を肩甲骨の上方回旋と言います。

左X線写真では、肩甲骨の円滑な運動が妨げられ、上方回旋が足りず、むしろ下方回旋しています。そのために、インピンジを起こしています(白丸の部分)。

猫背姿勢

慢性的な疲労に伴う背筋の硬直や、日ごろから猫背姿勢でいると、肩甲骨の動きが固くなり、腕を横に上げる動作でインピンジを起こしやすくなります。

②肩甲骨の前傾

肩甲骨の前傾

肩甲骨が前方に傾いていることを前傾と呼びます。
インピンジを防ぐためには、肩甲骨はむしろ後傾が理想の状態と考えられます。

運動不足や加齢に伴って、体幹筋力が衰えると、どうしても肩甲骨は前傾しがちです。

肩甲骨の前傾

それ以外にも、デスク仕事で腕を前に伸ばした状態を長時間続けていると、インピンジが発生しやすくなります【左図の白丸】。

③肩甲骨の下方回旋や前傾を招きやすい過度のトレーニング

トレーニング

大胸筋や上腕二頭筋など、肩甲骨前方に位置する筋肉だけを集中的に強化すると、肩甲骨は前傾しがちになり、おのずとインピンジしやすくなります。それ以外にも、肩の度重なる挙上運動の反復もインピンジを誘発しやすい動作の一つと考えられます。

ストレッチング

ストレッチングは筋肉の長さを回復するものとして運動療法の代表的な手法です。ただし、むやみに背中をストレッチやマッサージをしても十分な効果を発揮できないことがあります。

例えば肩こり改善を目的とした背中(僧帽筋)の効果的なストレッチには、肩甲骨や胸椎の可動性を高めることが大事であり、ストレッチなどで前胸部の柔軟性を回復する必要もあります。

当院で行う五十肩の治療法

①理学療法

理学療法
  • 理学療法士や柔道整復師などの国家資格を有するセラピストが、インピンジメントの克服、肩甲骨の位置修正や円滑な関節運動の獲得を目的に、運動療法を個別指導します。
  • 彼らは治療開始時に作成したリハビリテーション計画に則り、患者さん本人の自主性や積極性を促しつつ、最も効果的な運動療法を提案します。
  • セラピストによる筋膜リリース、関節モビライゼーションなどの徒手的治療やストレッチングはとても有用です。
座位の不良姿勢には理学療法による矯正が重要
座位の不良姿勢

背を丸めた姿勢では、骨盤から腕までつながる広背筋が、腕を引き下げるよう作用するため、肩の動きまで影響します。すると、くびや肩の筋肉疲労を招き、インピンジメント、ひいては五十肩を起こします。そのため、座位姿勢を整えることがとても大事です。

②物理療法

肩回りの筋委縮の緩和
物理療法

五十肩のために肩を動かさないでいると、肩周囲の筋力や柔軟性が低下するため、腕の土台である肩甲骨を無理やり動かして、肩の動きを補うことになります。その結果、肩やくび、背中の筋肉に疲労がたまりやすく肩こりがひどくなりますが、この場合、肩こりと四十肩の治療を並行して行う必要があります。

③ブロック注射

ブロック注射
  • 神経の伝達を一時的に遮断する注射です。
  • 超音波診断装置【エコー】を見ながら、神経周囲に麻酔薬を注入して、神経を短時間麻痺させる方法です。
  • 痛みを感じにくくする効果や筋肉を弛緩させる作用があるので、関節を柔らかくして日常生活の支障を緩和し、リハビリの効果を高めるのに役立ちます。

④ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸注射
  • 五十肩や変形性膝関節症の治療に頻用される注射です。
  • 皮膚、目、関節軟骨に含まれる成分でアレルギーを起こしにくいこと、たった1グラムで1リットルの水を引き付けるほどの強い親水性を持つことが大きな特徴です。
  • 肩に注入することでクッションの役目を果たすので、インピンジの軽減が期待できます。週1回または2週に1回のペースで注射を5回ほど打つのが一般的です。

⑤ステロイド注射

ステロイド注射
  • ステロイドホルモンは強力な抗炎症作用があり、アキレス腱炎やテニス肘、膝関節炎などにも注射薬として用いられます。
  • 着替えが困難で、就寝中に寝返りするだけでも痛みで目が覚めてしまうほどの激しい痛みがある場合、ステロイドホルモンの関節内注射はとても有効です。
  • 肩関節内注射で痛みが即時的に軽減することが期待できます。
  • ステロイドホルモン注射を頻回に注射すると腱や軟骨が弱くなることがあります。
  • ステロイドホルモン注射は1か月ごとに2,3回まで行います。
  • 症状軽減しない場合には、MRIなどの画像検査を踏まえて、カテーテル療法などの 新たな治療法をお勧めします。

⑥トリガーポイント注射

トリガーポイント注射

トリガーポイントとは、筋肉が固くこわばった部分で、圧迫すると痛みを感じ、周辺にも痛みが放散するような部位のことです。
その部分に麻酔薬や痛み止めの薬液を注射する手法をトリガーポイント注射と言います。
こわばった筋肉を緩め、血流を改善して痛みを緩和する効果があります。

⑦運動器カテーテル療法

理学療法や注射をいくら行っても効果が乏しい難治性の筋肉痛や関節痛に対して、運動器カテーテル療法を行っております。

運動器カテーテル療法の特徴

ハリやカテーテルをX線モニターやエコーなどの診断機器を見ながら体内に進めて、薬などを患部にダイレクトに注入する治療法です。

運動器カテーテル療法の特徴

カテーテルの太さは外径1mmと細いですが、 長さは65㎝~150㎝まであります。 動脈硬化などで血管が細くなっている場合には通すのに難渋することもありますが、基本的には体内のどこでもカテーテルをスムーズに到達させることが可能です。

内視鏡手術の長所なぜカテーテル療法が必要なのか?

熟練した放射線科医や循環器内科医と共に行います。
当院では、従来の整形外科的な治療法では効果が得られない場合にカテーテル療法を最後の切り札として提案します。

関節内注射
  • 関節内注射は関節内部の炎症鎮静化にとても効果的です。
  • しかし、慢性的な炎症で関節包が分厚く肥厚しているような場合、 関節腔内注射だけでは十分炎症を鎮めることができません。
  • カテーテル療法では、関節包や腱板疎部につながる血管を探し出し、そこから直接薬液を注入するため、関節包を全周性に、関節表面から内部の奥深くまで薬液をまんべんなく浸透させることができます。
  • カテーテルは痛覚の乏しい血管内を通るため、手術中に苦痛がほとんどないのも大きな魅力です。

カテーテル療法の手順

カテーテル療法の手順1

局所麻酔をしてから、腕や大腿の付け根に一か所だけハリを刺します。

カテーテル療法の手順2

そこからカテーテルを血管内に挿入します。

カテーテル療法の手順3

モニターで目的の部位までカテーテルが進んだのを確認してから、造影剤や薬液の注入などを行います。
注入時に、軽く電気が流れたようなピリピリ感や、蚊に刺されたようなかゆみを感じるかもしれません。それがご本人の痛む部位に感じるのなら、間違いなく薬液は目的の部位に到達しています。

カテーテル療法の手順4

“体が熱くなってきた”、“重く感じる”、“痒い”などの軽い不快感があるかもしれませんが、30秒ほどでおさまります。

カテーテル療法の手順5

注入後はカテーテルを抜去した後、針を刺した部分を10分程度圧迫して止血します。
所要時間は30分から1時間程度であり、ご本人の負担はとても少ないため、日帰り手術で対応可能です。

カテーテル療法の手順6

穿刺部の傷跡は1週間たつと、ほとんど目立たなくなります。

整形外科カテーテル療法の注意点

① 治療効果について
  • これまで当院で治療した患者さんの8割以上に、症状の軽減を認めております。
  • 改善の程度や効果発現の時期には個人差があります。
  • 約半数の方は、施行2・3日で夜間痛が消失し、熟眠出来るようになります。
  • 徐々に可動域が回復して、術後1・2か月程度で完全に回復します。
  • 一方で、施行後1~2か月頃から徐々に痛みが楽になる方もいらっしゃいます。
②費用について

自費診療で提供させていただいております。
費用は①手技料178,000円 ②術中X線撮影料 40,000円 ③使用機材や薬品、クスリ処方の費用30,000~40,000円 の三つを総計したものになります。
肩関節の目標とする血管は、走行に個人差がとても大きいうえに、とても細い場合があり、運動器カテーテル療法に精通した医師にのみ施行可能です。
また、X線撮影も特殊な機器で撮影を行う必要があります。

③所要時間について

ご来院からお帰りいただくまでの所要時間は約3時間です。

④術後の運動などについて

当日から日常生活には全く制限はありません。
デスク仕事などの軽作業であれば、当日でも問題ありません。
術後2~3日まで、激しい運動や重労働を控えて頂きます。

⑤禁忌事項
  • 造影剤など、使用する薬剤にアレルギーがある場合にはお勧めできない場合があります。
  • 一部の糖尿病薬は休薬いただく必要があります。
  • それ以外にも、現在お飲みの内服薬に関しては事前に詳しく確認させていただきます。

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